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名古屋地方裁判所 平成3年(ワ)1473号 判決 1996年3月28日

名古屋市<以下省略>

平成三年(ワ)第一四七三号事件原告

(以下「原告」という。他の原告も同様)

X1

愛知県岡崎市<以下省略>

同事件原告

X2

岐阜県恵那郡<以下省略>

同事件原告

X3

岐阜県郡上郡<以下省略>

同事件原告

X4

岐阜県多治見市<以下省略>

同事件原告

X5

名古屋市<以下省略>

同事件原告

X6

名古屋市<以下省略>

同事件原告

X7

岐阜市<以下省略>

同事件原告

X8

岐阜県大垣市<以下省略>

同事件原告

X9

名古屋市<以下省略>

平成四年(ワ)第三〇二号事件原告

X10

愛知県西春日井郡<以下省略>

同事件原告

X11

右原告ら訴訟代理人弁護士

浅井岩根

北村明美

大田清則

名古屋市<以下省略>

平成三年(ワ)第一四七三号事件、

平成四年(ワ)第三〇二号事件被告

(以下「被告」という。他の被告も同様。)

株式会社Y1

右代表者代表取締役

Y2

住居所不明

(最後の住所 名古屋市<以下省略>)

右両事件被告

Y2

名古屋市<以下省略>

(名古屋市<以下省略>名古屋拘置所在監中)

右両事件被告

Y3

名古屋市<以下省略>

(福井市<以下省略>福井刑務所在監中)

右両事件被告

Y4

名古屋市<以下省略>

右両事件被告

Y5

福岡県大牟田市<以下省略>

右両事件被告

Y6

主文

一  被告株式会社Y1、被告Y3、被告Y4、被告Y5及び被告Y6は、連帯して、原告X1に対し、金九九四万八一一〇円及びこれに対する平成三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X2に対し、金四二四万九五二〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X4に対し、金一四二万五四一〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X5に対し、金三八〇万九二八六円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X7に対し、金七〇三万二四一四円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X8に対し、金一八四八万円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X9に対し、金九九一万三八九〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X10に対し、金六六四万六七一八円及びこれに対する平成三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X11に対し、金一八四〇万五二〇〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告株式会社Y1、被告Y3、被告Y4及び被告Y5は、連帯して、原告X3に対し、金二二〇万円及びこれに対する平成三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告X6に対し、金八三万〇四三〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三1  原告らの被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。

2  原告X3、原告X6の被告Y6に対する請求をいずれも棄却する。

3  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らと被告Y2間に生じた分は原告らの負担とし、原告X3及び原告X6と被告Y6間に生じた分は右原告二名の負担とし、その余の原告らと被告Y6間及び原告らと右被告二名を除く被告ら間に生じた分はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を右被告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して原告ら各自に対し、別表(一)「損害一覧表」損害欄記載の金員及びこれに対する原告X1、原告X2、原告X3、原告X4、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8及び原告X9については平成三年四月一日から支払済みまで、原告X10及び原告X11については同年一〇月一日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、それぞれ被告株式会社Y1(以下「被告会社」という。)に対し、米国所在の商品市場における原油、灯油、大豆油、大豆粕、小麦、コーン、ココア等の商品の先物取引を委託し、その保証金として金銭又は金銭及び有価証券を預託したが、右預託は、当初から保証金名下に原告らから金員をだまし取ることを共謀した被告会社の役員又は営業員であるその余の被告らによって、原告らが欺罔された結果したものであると主張し、被告らに対し、連帯して、不法行為ないし商法二六六条の三に基づき、損害賠償金を支払うよう求めた事案である(なお、これらに対する不法行為日の後から民法所定の年五分の遅延損害金を求める附帯請求がある。)。

一  争いのない事実等

1(一)  被告会社は、海外商品先物取引所における先物取引の受託業務等を目的として、昭和六一年三月二七日に設立された株式会社である。被告会社は、平成二年一〇月一六日、海外商品取引規制法(海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律)違反の容疑で本店等の家宅捜索を受けた。(争いのない事実)

(二)  被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、被告会社の代表取締役であり、被告Y3(以下「被告Y3」という。)及び被告Y4(以下「被告Y4」という。)は、いずれも被告会社の取締役である。被告Y5(以下「被告Y5」という。)及び被告Y6(以下「被告Y6」という。)は、いずれも被告会社の営業員であったが、被告Y5は、平成二年一二月一一日、被告会社の監査役となった。(争いのない事実)

なお、原告X7、原告X8及び原告X3ほか五名に対する詐欺の罪によって、被告Y3及び被告Y4は、それぞれ懲役六年の判決を、被告Y5は、懲役四年の判決を、いずれも名古屋地方裁判所において、平成四年一二月二日、宣告され、被告Y6は、懲役三年一〇月の判決を名古屋地方裁判所において、平成五年一〇月二九日、宣告され、右各判決はいずれも確定した。(甲第一一六、第一一七号証)

2  原告らはいずれも、被告会社の営業員らの勧誘を受けて、それぞれ被告会社と、米国に所在する商品取引所(ニューヨーク・コーヒー・砂糖・ココア取引所、ニューヨーク・マーカンタイル取引所、ニューヨーク商品取引所及びシカゴ商品取引所)における商品の先物売買取引を被告会社に委託する旨の契約を締結するとともに、被告会社に対し、右各商品取引所における原油、灯油等の商品の先物売買取引の注文を委託し、保証金を交付した。(争いのない事実、甲第三二号証、第三六号証、第四一号証、第四四号証、第四六号証、第四九号証、第五二号証、第五五号証、弁論の全趣旨)

二  争点

1  争点1(不法行為責任の有無)

(原告らの主張)

(一) 民法上の不法行為責任

被告Y3、被告Y4、被告Y5、被告Y2は、海外先物取引の保証金名下に金員を騙し取ろうと企て、被告Y6、A(以下「A」という。)、B(以下「B」という。)、C(以下「C」という。)、D(以下「D」という。)らと共謀の上、顧客のために誠実に先物取引の仲介契約を履行する意思がなく、かつ顧客から要求があっても取引を手仕舞する意思も、顧客に委託保証金や利益を返還する意思もないのに、これらがあるように装い、各自役割を分担の上、組織的に後記(三)(1)ないし(3)のような種々の手段を弄して、原告らに損害を与えたものであり、これは被告会社の組織的な不法行為である。

したがって、被告Y3、被告Y4、被告Y5、被告Y2は民法七〇九条、七一五条二項、七一九条により、被告Y6は同法七〇九条、七一九条により、被告会社は、右損害が被告会社の業務の執行について加えられたものであるから、同法七〇九条、七一五条一項、七一九条により、連帯して、原告ら各自に対し、後記2の損害を賠償する責任がある。

(二) 商法二六六条の三第一項の責任(被告Y2について)

被告Y2は、仮に不法行為が成立しないとしても、取締役でありながら、右会社ぐるみの詐欺行為を全く監視せず、取締役会の召集を求めることもしないでいる間に、その余の被告らが右不法行為を行い原告らに損害を与えたのであるから、商法二六六条の三第一項に基づき、原告ら各自に対し、後記2の損害を賠償する責任がある(後記2記載の金員のほかに不法行為日の後である平成三年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金を請求)。

(三) 侵害の態様

(1) 勧誘の方法の違法

ア 海外先物取引の仕組み及びその危険性等、重要事項について全く説明せず、かつ「原油の先物取引をやりませんか。今なら確実に値上がりします。今買えば確実に儲かります。」等、不実の事実を告げ、断定的判断を示して執拗に勧誘した。

イ 法定のクーリングオフ期間を潜脱するため「会社を見てもらえれば安心してもらえると思います。」「お迎えに行きますので会社に来て下さい。」等と言って、原告らを被告会社の事務所に連れ込み、そこで売買取引の委託契約書に署名、押印させた。

(2) 巧みな虚言、甘言を弄して、原告らから、委託証拠金名下に多額の金員を出させた違法

(3) 呑み行為、向い玉、スプレッド取引、一任売買、無断売買、無意味な反覆売買(ころがし)、両建玉、利乗せ満玉、無敷取引、薄敷取引の各実施及び仕切等の拒否による違法

(被告らの認否)

原告らの主張事実は、すべて争う。

2  争点2(損害の有無)

(原告らの主張)

(一) 財産的損害

原告らは、各自、別表(二)ないし(一二)の各原告についての「保証金返戻金一覧表」の、日付欄記載の日に、保証金欄記載の金員ないし株式を被告会社に対し交付し、返戻金欄記載の金員を被告会社から返還された。したがって、右各一覧表の未返還額欄記載の各金額は、各原告が被告会社により騙取された金額(なお、原告X1が被告会社に交付した川崎重工業の株式一〇〇〇株は、平成二年一月二五日の終値が一株当たり九九〇円であったから、九九万円相当の価値があった。)のうち、被告会社から返還されていない金額であり、これが、別表(一)「損害一覧表」の財産的損害欄記載の各金額である。

(二) 精神的損害

原告らは、前記不法行為により多大の精神的苦痛を受け、これを慰謝するためには、原告ら各自について別表(一)「損害一覧表」の精神的損害欄記載の各慰謝料が相当である。

(三) 弁護士費用

原告らは、原告ら訴訟代理人に対し、本訴の提起及び遂行を委任し、その報酬として原告ら各自について別表(一)「損害一覧表」の弁護士費用欄記載の各弁護士費用の支払を約した。

(四) 合計

したがつて、原告らが被告らの不法行為により被った各損害費目の合計額は別表(一)「損害一覧表」の損害欄記載の各金額である。

(被告らの認否)

原告らの主張事実は、すべて争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1(不法行為責任の有無)について

前記争いのない事実等のほか、甲第一ないし第九号証、第三三号証、第三四号証の一ないし七、第三五号証の一ないし二〇、第三六号証、第三七号証の一ないし三、第三八号証の一ないし三〇、第三九号証の一ないし三、第四〇ないし第四二号証、第四三号証の一ないし一一、第四四号証、第四五号証の一ないし六〇、第四六号証、第四七号証の一ないし三、第四八号証の一ないし七、第四九号証、第五〇号証の一ないし四、第五一号証の一ないし二三、第五二号証、第五三号証の一ないし五、第五四号証の一ないし三四、第五五号証、第五六号証の一ないし六、第五七号証の一ないし一三、第六〇号証の一ないし五二、第八二ないし第八四号証、第八五号証の一ないし四、第八六号証の一ないし三七、第九六ないし第一一〇号証、第一一四号証、原告X9、同X6、同X3、もと被告E、同D、同Aの各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告会社の設立等

被告Y3は、昭和五八年、Fとともに、海外先物取引の仲介を業とするa貿易株式会社を設立した。同社は、先物取引の委託保証金名目で、客から金員を出させた上で、客の出金の要求に応じず、客に繰り返し売買をさせて結局客の勘定を損に持ち込んでいくという方法で金員を騙取するための舞台として設立された会社であった。

被告Y6は、同社が設立される際、右Fが同社の専務取締役として引き入れた者であり、同社における右違法な活動に精通していた。

被告Y3は、昭和六一年三月、被告Y4とともに、a貿易株式会社において行われていた詐欺の方法をそのまま踏襲して金員を騙取するべく、そのための会社として、被告会社を設立し、被告Y2から右設立のための資金を提供させるとともに同被告を社長に据えた。

被告Y5は、昭和六二年一二月、被告Y6は、平成元年九月、いずれも被告会社が右のような違法な活動をしていることを知りながら、被告会社に入社し、被告Y5は営業を、被告Y6は客からの苦情や客が依頼した弁護士との対応及び営業を担当していた。(甲第一〇一ないし第一一〇号証、第一一四号証)

2  被告会社の金員騙取の方法

被告会社では、次のような、定型化された一連の流れの中で、各社員、各役員が、それぞれの立場に応じた段階を担当し、それぞれが種々の方法を弄しながら、組織的に客から保証金名下に金員を騙し取っていた。(甲第九六ないし第一一〇号証、第一一四号証、もと被告E、同D、同A各本人尋問の結果)

(一) 新規客の開拓

(1) アポ取り

課長以下の営業員が、市販の名簿等に基づき面識のない不特定多数者に次々と電話を架けて、「海外の利殖方面のPRをさせてもらってます。」等、曖昧な言い方をして、客の警戒心を解きながら、面会の約束を取り付ける。

(2) 訪問

その後、その営業員が、客をその勤務先に訪問し、「被告会社は、海外での商品先物取引の受託業務を行っており、アメリカの会社と提携してアメリカの公認市場に客からの注文を取り次いで、その手数料収入で経営している会社です。」「先物取引は、株式取引と異なって、丸々代金を支払う必要はなく、商品によって決まっている保証金を納めればいいのです。」「いま、この商品は安いところにあって、これから値が上がります。」「利益が出たところで取引をやめればよく、保証金については、アメリカの市場に送られ、そこで保管されているので、取引が終了すれば、それに利益を加えた上、Y1の手数料を差し引いてすぐに客に返すことになっている。」等と説明して、少ない資金で大きな利益が短期間で確実に儲けられるのだという印象を客に与え、先物取引に参加する意思のない客に対し、先物取引について興味を植え付け(興味付け)、それとともに客の資金力も把握する。営業員は、訪問によって得た客の住所、氏名等の情報のほか、訪問の際に説明した銘柄と枚数、値段、商談時間、客の反応等をカード(B客カード)に記載して、上司に提出する。これが「攻撃」をかける時の資料となる。

(3) 攻撃

次長以下の役職の営業社員が、訪問によって興味付けした客に玉を注文させて、契約に持ち込むため訪問をした営業員の名前を使って「先に説明した商品の値段が暴騰し始めたというニュースが入ってきて、今なら確実に儲けられる。」「このまま行けば先日お話ししました二五ドルは時間の問題になってきました。買いが殺到しているので買えるかどうか分かりませんが、高値掴みになっても意味がないので、二〇ドル以下の値段で試しに何枚だけ注文させて下さい。もし注文が通ったら付き合って下さい。」等の虚偽の事実を電話し、客から商品取引の注文を出してもよいという意味にも取ることができる「はい。」とか「分かりました。」等の返事を引き出す。その際、攻撃の電話を掛けている者以外の営業員は、その回りで、「買いだ、買いだ。」「○○商事、買い何枚」等と大声を出し、商品が値上がりしていて買いが殺到しているかのような雰囲気を演出する。

(4) 再訪問

攻撃の電話をした五分から一〇分後、注文を仲介していないにもかかわらず、「運良く買えました。」「これから伺って改めて詳しいお話を致します。」等の電話をし、客の勤務先を最初の担当者と攻撃の担当者が訪問する。

そこで、値上がりした理由を具体的にあげて、「短期間で初めに営業社員が訪問した時に説明した利益が確実に取れるいいチャンスをものにしましたね。」「Y1はお客さんに儲けていただいて、そこからいただく手数料で成り立ってます。」「保証金と利益は一〇営業日以内に返還する。」等、更に虚偽の事実を述べ、客に注文書を書かせる。

(5) 契約

クーリングオフによる解約を避けるため、「会社を見てもらえれば安心してもらえると思います。」「お迎えに行きますので会社に来て下さい。」等と言って被告会社の事務所に連れ込み、契約書に署名、押印させ海外先物契約を締結させる。その際、営業社員と上司らが立ち会い、「手数料を引いても十分な利益が出る。」「Y1は手数料で成り立っている。」「やめたい時には、いつでもやめられる。」「保証金と利益は一〇営業日以内に返される。」等、虚偽の事実を述べる。また、リスクに関する説明書に署名、押印させるため「こういうことが書いてありますが、今回の場合は値が下がる状況にはありませんから関係ありません。気にしないで下さい。」と述べ、加えて、更に追加注文をさせるため、「今回が絶好のチャンスです。一枚ではなくもっとやらないと後悔しますよ。」等述べる。

(二) 商い(客から引き出せるだけの金員を引き出し、その上で、客に繰り返し売買をさせて意図的に損を大きくさせ、計算上、客に委託保証金を返さなくて済むようにする。)

(1) 客に入金させる手法

ア 両建(客の建玉が損になっている場合に、その建玉と反対の売買の建玉を行わせる。)

客の建玉を増やさせて委託保証金の入金を図ること、及び客に取引を継続させることを目的として行う。

イ 難平(客の建玉が損になっている場合に、その建玉と同じ方向の建玉を行わせる。)

建玉を増やす必要が出てくることから、委託保証金の入金を増やせ、値動きによっては客の損をより大きくすることができる。

ウ 利乗せ満玉(客の建玉に利が出ている場合に、建玉を一回仕切らせて利益を出させ、これを委託保証金に振り替えた上、建てられるだけの建玉をさせる。)

入金を図るとともに、わずかな値動きでも大きな損を出させることができるので、客潰しのための手段にもなる。

エ 保証金額の引上げ

保証金額を引き上げて、従前の保証金額との差額相当分を追加入金させる。

(2) 客の取引を損勘定に持ち込む(客潰し)手法

ア 途転(それまでの建玉を仕切って、それと反対の売買をさせる。)

イ 直し(それまでの建玉を一旦仕切って、もう一度同じ建玉をさせる。)

ウ 銘柄変更(その時の建玉を仕切って、別の銘柄の玉を建てる。)

エ 薄張、無張(玉を建てるのに必要な委託保証金が足りなかったり、なかったりするのに、玉を建てさせる。)

(3) 仕切り要求の拒否

利が出ている客には「まだ利が増えますから、今仕切るのはもったいないです。」と言い、損が出ている客には「そろそろ相場の流れが変わるのでもう少し様子を見てみましょう。」と言う等して、仕切り要求を拒否し、さらに仕切り要求が強くなると、銘柄変更をしたり、商いの担当者を変えたりして、客の目先を変えて取引を続けさせる。

(三) 業務

被告会社では、詐欺罪による処罰を逃れるため、建玉を海外の商品取引所へ発注していた。しかし、客から交付された金員のほとんどを被告会社で使える金として残すために、当初は、マッチングオーダーで、その後、この方法が使えなくなった後は、スプレッドオーダーで発注していた。マッチングオーダーとは、客の建玉を発注すると同時に客の建玉と反対の建玉(向い玉)を被告会社自らも発注する(自己玉)ことであり、これによって売り買い同数にすると、被告会社は客から受託した委託証拠金を米国の商品取引所の取引員に送金する必要がなくなる。スプレッドオーダーとは、ある商品の建玉と限月の違う同一商品のそれと反対の建玉を同時に発注することであり、これをランダムに行うことによって、結果として、同時に同一限月の同一商品を売り買い同数で注文したのと同様な状態を作り出し、これによって、マッチングオーダーと同様に、客から受託した委託証拠金を米国の商品取引所の取引員に送金する必要をなくした。

このように、海外市場に玉を通しながら被告会社に金が残るように玉の発注を行う作業を、被告会社では「業務」といい、被告Y3と被告Y4が、その担当者の決定及び方法の指導等をしていた。

3  原告らと被告会社との取引

(一) 原告X1との取引

(1) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、昭和三九年生まれの男性でb株式会社に勤務するコンピューターシステムエンジニアであり、被告会社との本件取引以前、商品先物取引の経験はなかった。

(2) 原告X1は、平成二年一月初めころ、同原告の勤務先に二度電話を掛けてきた被告会社の営業員C(以下「C」という。)から原油の先物の売買取引を勧められ、同月一七日ころ、再び電話を掛けてきたCから「値が下がってきており、買いを入れる絶好のチャンスなので、是非三枚やって欲しい。三か月で三ドルくらいは必ず上がります。」と言われた。そこで、原告X1は、「安い値で入ったら買って下さい。」と言って原油の先物の買い注文を被告会社に対し委託した。

(3) 原告X1は、右一七日又は翌一八日、Cから「二枚取れました。ラッキーです。手をたたいて喜んでください。」との電話を受けたが、被告会社が実際にこの買い注文を建てたのは、同月一九日であった。(甲第三五号証の一)

(4) 原告X1は、同月一九日、同原告の勤務先に車で迎えに来たC及び被告Y5とともに、被告会社の事務所へ行った。この際、被告Y5は、原告X1に対し、「三か月で七ドルの値上がりは堅い。」と言い、損をするという説明はせず、また追証についても、まず有り得ない旨述べてほとんど説明しなかった。そこで、原告X1は、米国に所在する商品取引所(ニューヨーク・コーヒー・砂糖・ココア取引所、ニューヨーク・マーカンタイル取引所、ニューヨーク商品取引所及びシカゴ商品取引所)における商品先物取引を被告会社に委託する旨の契約書(以下「先物取引委託契約書」という。)に署名、押印した。(争いのない事実、甲第三三号証、第三五号証の一)

(5) 原告X1は、同月二五日、勤務先に来たCと被告Y5に対し、現金九一万〇五〇〇円及び川崎重工業株式会社の株式一〇〇〇株を交付し、同年二月一四日、勤務先に来た被告Y5に対し、現金一六〇万円を交付した。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」1ないし3。甲第三四号証の一ないし三)

(6) 原告X1は、同月下旬ころ、被告Y5から電話で「株価が安定しないため、スタトラーから評価を七〇パーセントから五〇パーセントにダウンさせるとの通知がありました。差額分の支払をして欲しい。」との電話を受けた。そこで、同年三月八日、勤務先に来た被告Y5に対し、右差額分として現金二四万七〇〇〇円を交付した。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」4。甲第三四号証の四)

(7) 原告X1は、同月二八日、被告Y5から「納会が近くなってきたから、期先の限月にかえたほうが良い。」との電話を受け、これに従い五月限月の買い、売り各二枚を仕切って、新たに七月限月の売り二枚を建てた。更に同年五月三〇日、被告Y5から「納会が済んで現物がきてしまいますよ。買い四枚一月限を建てましょう。」との電話を受け、これに従った。(甲第三五号証の三ないし七)

(8) 原告X1は、同年六月七日、被告Y5から「買いが支えきれないので両建てにした方がよい。」との電話を受け、更にその一五分程後に被告Y6から「残り七枚しかないので、早く両建てする決断をしなさい。」との電話を受けたため、売りを四枚建てる注文を出し、同月二二日、勤務先に来た被告Y5に現金二四二万九二四二円を交付した。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」5。甲第三四号証の五、第三五号証の八)

(9) 原告X1は、同年八月二二日、被告Y5に対し、買い四枚の仕切を指示するために被告会社に電話したところ、被告Y6が出て「保証金が八〇万円から一五〇万円に値上がりしたので、差額(七〇万円×八枚=五六〇万円)を入れるか、買い四枚、売り四枚を全部仕切って一旦清算してもらうより方法がない。この場合も、新たに買い四枚建ててもらわなければ、仕切ることもできません。」と言われたため、その意味を理解できないまま、これに従った。(甲第三五号証の九ないし一一)

(10) 原告X1は、同月二四日ころ、被告Y6から「三一四万円不足しているから入れて欲しい。」との電話を受けた。そこで、原告X1は、同月三〇日、勤務先に来た被告Y6に対し、現金三一四万円を交付した。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」6。甲第三四号証の六)

(11) 原告X1は、被告Y6から、同年九月初め、「追証がかかった。金額についてはまた話します。」との電話を受け、その一、二日後、「追証二〇〇万円払って欲しい。」と言われ、やむなくサラ金等から計二一〇万円を借り入れ、同月六日、勤務先に来た被告Y6に対し現金二〇〇万円を交付した。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」7。甲第三四号証の七)

(12) その後、原告X1は、被告Y6の指示に従い、同年九月一一日、八月二三日に建てた買い四枚を仕切って、売りを四枚建て(これらは、九月一七日と一〇月八日に各一枚、一〇月一九日に二枚、それぞれ仕切った。)、九月二五日、買いを三枚建てた(これらは、一〇月五日に一枚、一〇月一九日に二枚、それぞれ仕切った。)。(甲第三五号証の一二ないし二〇)

(13) 原告X1は、一〇月一八日、Y1被害者救済弁護団に事件解決の依頼をし、弁護士の指示で一〇月一九日、すべての建玉が仕切られ、一一月二日、被告会社から、清算金二二七万三〇〇五円の返還を受けた。(別表(二)「X1保証金返戻金一覧表」)。(争いのない事実、甲第一号証、第三三号証、第三四号証の一ないし七、第三五号証の一ないし二〇)

(二) 原告X2との取引

(1) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、昭和二七年生まれの男性で、c株式会社料飲部に勤務するサラリーマンである。

(2) 原告X2は、昭和六三年六月初めころ、被告会社の営業員A(以下「A」という。)から「いい儲け話があります。一度会社の方へご説明にお伺いしたいのですが。」との電話を受け、勤務先での面会を承諾した。原告X2は、その数日後、Aとともに同原告の勤務先を訪問して来た被告会社の営業員B(以下「B」という。)から、「原油の取引をしませんか。今値段か上がってきていますが、今から二ドル上がります。二ドル上がると、一三〇万円預けてもらえば、そのお金が倍になります。私は値動きが読めますので、私に任せてもらえれば、値段が上下しても大丈夫です。」と言われて原油の先物の売買取引を勧められ、取引をやることに応じた。原告X2は、Bから「信用してもらうため一度会社を見て下さい。」と言われ、同月二〇日、被告会社に赴き、そこで、先物取引委託契約書に署名、押印し、原油の買いを一枚注文を出した。

(3) 原告X2は、その後、B、Y5の指示に従って、原油の売りを建てて両建にし、小麦について計一七枚の建玉を、大豆油について計三四枚の建玉をし、保証金として、被告会社に対し、昭和六三年六月二七日から平成元年九月二一日までの間、別表(三)「X2保証金返戻金一覧表」記載のとおり、合計四七五万円を交付した。

(4) 原告X2は、右金員を交付した後、Y5から全く連絡がなくなったため、不審に思い、Y5宛被告会社に何度も電話を架けたが、Y5が電話に出ることはなかった。そこで、同原告は、Y5の代わりに電話に出た被告Y6に対し、何度か「取引をやめたい。」と言ったが、被告Y6からその度に「それは、Y5を通じてやって下さい。」「今やめたら損になるだけです。」等言われ、結局、右要求は無視された。

(5) そこで、原告X2は、弁護士に事件の解決を依頼し、平成二年四月九日、すべてが仕切られ、平成二年五月三一日、被告会社から、八八万六八〇〇円の返戻を受けた。(争いのない事実、甲第二号証、第三六号証、第三七号証の一ないし三、第三八号証の一ないし三〇、第六〇号証の一ないし五二)

(三) 原告X3との取引

(1) 原告X3(以下「原告X3」という。)は、昭和三九年生まれの男性で、d株式会社に勤務するサラリーマンである。

(2) 原告X3は、平成二年六月中旬から七月にかけて、同原告の勤務先を訪問した被告会社の営業員D(以下「D」という。)から、「オペック総会間近なので今が投資のチャンスです。」などと原油の先物取引を勧められ、同月二〇日ころ、同原告の勤務先近くの喫茶店においてD及びCと会った。原告X3は、DとCから、過去のオペック総会前後の原油の値動きを日本経済新聞の切り抜きを見せながら説明され、Cから「一か月すればいつでもやめて貰えばいいですよ。」などと言われたため、右両名を介して、被告会社に対し、原油の買いを一枚注文し、翌日、被告会社へ赴くことを約した。

(3) 原告X3は、翌日、被告会社で、被告Y5と会い、先物取引委託契約書に署名、押印した。同被告からは、「良い時期に始めましたね。これからは上がる一方です。もう一枚いかがですか。」「今は、借金してでもやったほうがX3さんのためです。」と言われ、借金の利息より利益の方が数十倍多いとの説明を受けた。

(4) 原告X3は、同月二六日、被告会社に一六〇万円を持参し、支払った。

(5) 原告X3は、その後、被告Y5に電話で仕切りを求めたが、「まだ値段が上がっているから三〇ドルまで待ちましょう。」と断られた。

(6) 原告X3は、Aから、同年八月一九日ころ、同人が同原告の勤務先に架けた電話及び被告会社での面談において、原油の値動きが激しくなったため追加保証金を入れないと取引ができなくなるし、損が出るので、一四〇万円を同月二三日までに支払うよう言われ、同日、一四〇万円のうち準備できた一二五万円を被告会社に持参してAに交付し、同月二八日、残金一五万円を被告会社に持参して被告Y5に交付した。

(7) 原告X3が、Aに仕切りを求めても、Aは「まだ上がりますから。」「今ストップ高なので商いができません。」と言い、更に指値による仕切り要求にも、Aは指値を「聞いていません。」と言って、仕切らせなかった。

(8) その後、原告X3は、Y5の指示に従い両建にし、大豆油に銘柄を変更した。

(9) 原告X3は、結局、被告会社に対し、前記のとおり合計二〇〇万円を交付した(別表(四)「X3城保証金一覧表」)。(争いのない事実、甲第三号証、第三九号証の一ないし三、甲第四〇号証、第九四号証、第九五号証、第一〇〇号証、原告X3本人尋問の結果)

(四) 原告X4との取引

(1) 原告X4(以下「原告X4」という。)は、昭和三六年生まれの男性で、株式会社eに勤務するサラリーマンである。

(2) 原告X4は、平成元年一二月四日、Cから電話で「今買えば年末にかけて値上がりするので一週間か一〇日間で三〇万ないし五〇万儲かる。」などと原油の先物の売買取引を勧められたが、「もういいです。」と断った。しかし、その後、再びCから「あなたの名前で一枚買えましたので、契約に来て下さい。」との電話があった。そこで、原告X4は、被告会社に赴いてC、被告Y5と話をしたが、「個人名で注文したためクーリングオフできない。」と言われ、やむなく先物取引委託契約書に署名、押印した。

その際、原告X4は、C、被告Y5から保証金八〇万円を支払うよう言われたため、右金員を用意し、その数日後、同原告の勤務先に取りに訪れた被告Y6に右金員を支払った。

原告X4は、平成二年一月一〇日ころ、被告Y5から「両建しないと急激に下がった場合、損が大きくなります。もう一枚買って下さい。」との電話を受けたが断った。しかし、その二、三日後、購入したとの書類が郵送されてきたため、被告Y5に電話したところ、「私のお金で買っておきました。一枚清算したときに返してもらいます。」という返事であった。そこで、原告X4は、被告Y5に対し、二枚の仕切りを求めたが、同年二月五日に一枚が仕切られたのみであった。

原告X4は、同月二一日、被告Y6から「関係するアメリカの会社が倒産し、大変なことになった。二、三日中に二〇〇万から三〇〇万円を用意してもらわないといけないことになる。それが払えなければ一つの手段として二枚買えば、一週間待って市場が落ち着いたときに、清算することができる。」との電話を受けた。原告X4が、その際、被告Y6に「どちらにしても利益分を差し引いた一三七万円は用意できない。」と言い、翌日、被告会社に行き、被告Y6と会うと、同被告は「すでに二枚購入したから、サラ金で金を借りて支払ってくれ。」と言ったので、原告X4は同月二八日、一三七万円を被告会社に持参し、支払った。

(5) 原告X4は、同年四月中旬、同人の仕切りを求める電話口に出た被告Y5から「二枚買って相殺する方法がある、これならば資金もいらない。」と言われたため、これに従って更に二枚買ったが、同年四月の終わりに三枚分の清算書が送付されてきただけであった。

(6) 原告X4は、その後、弁護士に右事件の解決を依頼し、被告会社から、八七万四一七二円の返戻を受けた。(争いのない事実、甲第四号証、第四一号証、第四二号証、第四三号証の一ないし一一、原告X3本人尋問の結果)

(五) 原告X5との取引

(1) 原告X5(以下「原告X5」という。)は、昭和一九年生まれの男性で、株式会社cに勤務するサラリーマンであり、被告会社との本件取引以前には、株式取引、商品先物取引のいずれについても経験がなかった。

(2) 原告X5は、昭和六一年七月二一日ころ、同原告の勤務先に「私はf高校の後輩にあたります。いい儲け話がありますので、一度会社の方へご説明にお伺いしたいのですが。」と電話を架けてきたAと翌二二日、勤務先で会い、同人から「必ず儲けさせます。」と言われてコーンの先物売買取引の勧誘を受けた。

(3) 原告X5は、翌二三日、Aとともに同原告の勤務先を訪れた被告会社の営業員G(以下「G」という。)を介して、被告会社に対し、コーンの先物の買い注文を二枚出すとともに、先物取引委託契約書に署名、押印した。Gは「これから値が上がりますから、必ず利益が出ます。最悪の場合でも三か月で元金は必ずお返しします。」などと述べた。

(4) 原告X5は、Gから執拗にコーンの枚数を増やすように勧誘され、同月二四日ころ買い一枚を、同月三一日ころに買い三枚を建てた。

(5) 原告X5は、その後、Gら被告会社の営業員の勧めに従い、取引商品の銘柄をコーンから、昭和六一年九月ころ大豆へ、同年一二月ころ原油へ、昭和六二年二月にココアへ、同年五月に小麦へと順次変更しながら取引を続けた。昭和六三年八、九月ころ、被告Y5が、原告X5と応対するようになり、原告X5は、被告Y5の指示とおりに建玉した。昭和六三年一一月ころ、原告X5は、被告Y5の指示で小麦から大豆油へ商品を変更し、これについても被告Y5の指示とおり建玉し、両建をした。

(6) 原告X5は、平成二年四月ころ、取引をやめようと被告会社に電話したところ、電話口に出た被告Y6は「あと七〇万円ほど都合して取引を続けた方がよい。ここでやめても損になるだけだ。」と言って、一向に原告X5の要求に応じようとはしなかった。

(7) 結局、原告X5は、被告会社に対し、昭和六一年七月二六日から平成元年八月三日までの間、別表(六)「X5保証金返戻金一覧表」記載のとおり、売買取引についての委託保証金として合計三七五万〇五五七円を交付し、被告会社から、昭和六一年一一月ころ及び同年一二月ころ、合計二八万七五六九円の返戻を受けた。(争いのない事実、甲第五号証、第四四号証、第四五号証の一ないし六〇)

(六) 原告X6との取引

(1) 原告X6(以下「原告X6」という。)は、昭和三八年生まれの男性で、b株式会社に勤務するサラリーマンであり、被告会社との本件取引以前には、株式取引、先物取引のいずれについても経験がなかった。

(2) 原告X6は、平成二年七月初旬、同原告の勤務先に二度、電話を架けてきたDから、「先物取引の会社ですが、今、中東のほうがだいぶ混乱していて、原油が上がっているので、今やってもらうと短期間で儲かりますから、一度話だけでも聞いて下さいませんか。」「すさまじい勢いで中東の状態がこうなっていますので、原油がどんどん上がっています。今、原油を買って先物取引を始めていただければ、短期間で儲かりますので、また話でも聞いてください。」と原油の先物の売買取引を勧められ、更に、数日後、同原告の勤務先を訪れたD及びAから右取引についての説明を受けた。原告X6は、同月一一日、Dから「今一九ドルくらいで買える。今なら必ず儲かるから買わないか。」「今買わなければ一生後悔する。この機会を逃すと一〇年はこんなチャンスは来ない。」「買えるかどうかも分からないが、今買わないと十年、二十年こんなチャンスはない。今やらない手はないです。」との電話を受けた。そこで、原告X6は、右電話で、被告会社に対し、原油の先物の買い注文を一枚出した。

(3) 原告X6は、「会社を見せたい。」とDに言われ、同月一三日、被告会社に赴き、被告Y5、D、Aらと会って、先物取引委託契約書に署名、押印して、右契約をし、保証金として八〇万円を交付した。

(4) 原告X6は、同年八月六日、Aから「相場の上昇に伴い一度仕切って利益をとって下さい。」「一枚しか持っていない人はあなただけです。ほかの人は五枚とか一〇枚とか持っています。こんな一枚だけで商いをしているのはもったいないですよ。」「二枚で保証金は一六〇万円です。今回の利益は七三万四二〇六円あるのであと不足分六万五七九四円を入れればもう一枚のを買うのに足りますよ。」との電話を受け、当初は仕切って取引を終わるよう求めたにもかかわらず、結果として買いを二枚注文し、同月七日、右六万五七九四円を被告会社に交付した。

(5) 原告X6は、同月二〇日ころ、Aから「原油価格の上昇に伴い保証金が一枚につき八〇万円から一五〇万円に引き上げられたという定時待ちがかかった。二枚で一四〇万円の保証金を入れないと商いができないし、原油の現物になる可能性がある。そうすると今より何倍もお金がかかるからまずい。一週間以内に保証金を入れてくれ。」「定時待ちとは、価格が急に大幅に上がった場合、それにつれて保証金も上がるというものだ。」との電話を受けた。そこで、原告X6は、やむを得ず、同月二四日、右一四〇万円を被告会社に持参し、仕切りを要求したが、「ニューヨークの市場が混乱している。コンピューターがパンク状態だ。」と言って右要求を受け付けなかった。

(6) 原告X6は、その後も、被告会社に対し、度々、仕切って取引を終了することを求めた。しかし、被告会社は言を左右してこれに応じず、むしろ、原告X6に対し、原油の買建の二枚を仕切って、新たに売りを二枚建てさせ、更に右売建二枚を仕切って、新たに大豆油の売りを二枚建てさせた。

(7) 原告X6は、被告会社との取引の解消を弁護士に依頼し、その結果、被告会社から一五一万〇八五六円の返還を受けた。

(8) したがって、原告X6は、被告会社に対し、平成二年七月一三日から同年八月二四日までの間、別表(七)「X6保証金返戻金一覧表」記載のとおり、売買取引についての委託保証金として合計二二六万五七九四円を交付し、被告会社から、一五一万〇八五六円の返戻を受けた。(争いのない事実、甲第六号証、第四六号証、第四七号証の一ないし三、第四八号証の一ないし七、原告X6本人尋問の結果)

(七) 原告X7との取引

(1) 原告X7(以下「原告X7」という。)は、昭和二七年生まれの男性で、g株式会社に勤務するサラリーマンであり、被告会社との本件取引以前には、株式取引、商品先物取引のいずれについても経験がなかった。

(2) 原告X7は、平成元年一二月に、Aから電話を受け、同人と勤務先で会い、原油の先物取引を勧められたが、このときには右勧誘を断った。しかし、原告X7は、平成二年八月九日、同原告の勤務先に再度電話を架けてきたAから「以前お会いしたAです。原油の先物取引をやってみませんか。イラクがクウェートに侵攻したので、今なら確実に値上がりします。買えるかどうか分かりませんが、買えたら一枚やってみませんか。」と原油の先物の売買取引を勧められ、一旦電話を切った後、Aから、「一枚買えましたが、八〇万円がニューヨークに届かないと取引ができなくなってしまいます。一度会っていただけませんか。」と再度電話があった。そこで、原告X7は、被告会社に赴き、被告会社に対して、原油の先物の買い注文を一枚出すとともに、先物取引委託契約書、注文書等に署名、押印した。この際、Aは「今やれば必ず上がるから損をすることはない。」と強調したが、先物取引の危険性については説明しなかった。被告会社は、この日に原告X7の出した買い一枚を発注した。原告X7は、同月一六日、右取引の保証金として、八〇万円を入金した。

(3) 原告X7は、その後、①平成二年八月二三日ころ、Aから「委託保証金が八〇万円から一五〇万円に上がりました。あと七〇万円を入れてもらえなければ、今の取引も成立せず、益金ももらえなくなります。」「七〇万円を工面できないなら、今の取引を仕切ってもらいこれを清算して、その益金を証拠金に回し、その不足額を入金してもらうということで、新たに買いを建てましょう。」と勧められ、買い一枚を建て、同月二四日に証拠金の不足額として一八万円を被告会社に入金し、②同月二九日ころ、Aから「原油の値段が下がってきました。このままにしていると追加証拠金が必要になってきます。そこで、二枚建て両建にして、一枚で損を固定し、もう一枚で益を稼ぎましょう。」と勧められ、売り二枚を建て、③同年九月一〇日ころ、被告Y5から「委託証拠金が一五〇万円から二五〇万円に値上がりしますから、買いを仕切り、新たに売りを三枚ほど増やし、損を取り戻しましょう。ついては、あと一〇〇〇万円ほど入金して下さい。」と勧められ、そのとおりの建玉をして、同月一二日、四七〇万円を、同月一四日、四八〇万円を被告会社に入金し、④同年一一月八日ころ、被告Y5から「これから値が上がっていきそうです。とりあえず売り二枚を仕切り、新たに買い二枚を建てて、両建にして様子を見ましょう。」と勧められ、そのとおりの建玉をし、⑤同月二三日ころ、被告Y5から「今底値だから、これから値が上がります。売り三枚を仕切り、買いをあと二枚増やしましょう。」と勧められ、そのとおりに建玉し、⑥同月三〇日ころ、被告Y5から「中東情勢は戦争に入るかどうかで、値動きがかわってくるし、変動も激しい。しばらく原油から離れた方がよい。大豆油なら、ある程度の範囲内でしか動かないが、予想がつくので、大豆油をやって少しずつ損を取り戻しましょう。大豆油はこれから値が下がっていくので売りから始めましょう。」と勧められ、そのとおりの建玉をし、⑦これ以降も、被告Y5の指示に従い大豆油の売り八枚を仕切り、買い七枚を建て、次いで、買い七枚を仕切って、買い八枚を建てた。

(4) 原告X7は、以上の取引によって、被告会社に対し、平成二年八月一六日から同年九月一四日までの間、別表(八)「X7保証金返戻金一覧表」記載のとおり売買取引についての委託保証金として合計一〇四八万円を交付した。

(5) 原告X7は、その後、平成三年二月一二日、被告会社へ赴き、自ら仕切り注文書を書いて、Y5に交付することによって仕切りを申入れ、取引のすべてを仕切らせて、被告会社に対し、清算金四〇八万六八九六円の返還を求めた。しかし、被告Y6は、「来週に返還するからそのときに電話をしてほしい。」「まだ、ニューヨークから入金がないから待ってくれ。」等の口実を弄して、右返還を平成三年三月一五日まで引き延ばした。(争いのない事実、甲第七号証、第四九号証、第五〇号証の一ないし四、第五一号証の一ないし二三、第九一、第九二号証、第一〇三号証、第一〇六号証)

(八) 原告X8との取引

(1) 原告X8(以下「原告X8」という。)は、昭和三五年生まれの男性で、h株式会社に勤務するサラリーマンであり、被告会社との本件取引以前には、株式取引の経験も商品取引の経験もなかった。

(2) 原告X8は、平成二年四月二三日ころ、同原告の勤務先に電話を架けてきたCから「Y1という会社の者だが、いい利殖の話があります。一度やってみませんか。」との勧誘を受け、翌二四日、勤務先を訪れたCから、「今底値だから、今投資すれば必ず儲かる。」と原油の先物の売買取引を勧められた。原告X8は、同月二五日午前、Cが「いい情報が入りました。原油の一二月ものが今なら二〇ドル台で買えますよ。」と電話を架けてきて、「すぐ値が上がってしまうから今日じゃないとだめです。」などと言ったため、同人を介して、被告会社に対し、原油の先物の買い注文を一枚出したところ、同日午後、被告Y5とCが、原告X8の勤務先を訪れ、「こんなチャンスはめったにないから、一枚ではもったいない。」と勧めたので、更に買い一枚を追加して注文した。そして、被告Y5が「会社を見てもらえれば、安心してもらえると思います。」と言ったので、翌日、被告会社へ行くことにした。

(3) そこで、原告X8は、同月二六日、被告会社に赴いて、先物取引委託契約書等に署名、押印した。

(4) 原告X8は、その後、①同年五月二四日ころ、被告Y5から「値が下がるとの情報がある。売建を四、五枚して、(新たに売りで)難平にすることが得策です。」と勧められ、売りを二枚建て、②同月二五日ころ、被告Y6から「現在の両建では意味がない。売りの枚数を増やさなければいけない。」と勧められ、売りを二枚建て、③同年七月一二日ころ、被告Y5から「このまま値が上がり続ける可能性が大きい。売り四枚を仕切って、買いを増やすべきだ。」と勧められ、売り四枚を仕切り、新たに買い五枚を建て、④同年八月一、二日ころ、被告Y6から益金を証拠金にすべて回し、もっと買いを建てるよう勧められ、買い七枚をすべて仕切り、その益金をすべて証拠金に回し、新たに買い一二枚を建て、⑤同月三日ころ、被告Y6から「あと三〇〇万円を証拠金として入れてもらえれば五枚位建てられます。」「こんなことは一生に一度あるかないかのことです。借金をしてでも枚数を増やして儲けるべきです。」と勧められ、買いを五枚建て、⑥同月二一日ころ、被告Y5から証拠金が一枚につき七〇万円上がったこと、そして「今の建玉を仕切るためには、証拠金がきちんと入っていないとだめだ。」「とにかく仕切って、益金を追加証拠金に当てることが先決です。今仕切れば、三〇〇万円ほどの益金が出ますから、あと八〇〇万円を入れて下さい。」と言われたため、同月二三日ころ、八〇〇万円を被告会社に振り込み、⑦これ以降も、これ以前の買い合計一七枚を買い直し、これを仕切って、売り一七枚を建て、更に買い一六枚を建てて両建にする取引をした。

(5) 以上の取引によって、原告X8は、被告会社に対し、同年五月一日ころから同二年八月二三日までの間、別表(九)「X8預託金一覧表」記載のとおり売買取引についての保証金として合計一六八〇万円を交付した。(争いのない事実、甲第八号証、第五二号証、甲第五三号証の一ないし五、第五四号証の一ないし三四、第九三号証)

(九) 原告X9との取引

(1) 原告X9(以下「原告X9」という。)は、昭和二六年生まれの男性で、b公社に勤務するサラリーマンであり、被告会社との本件取引まで、商品先物取引の経験はなかった。

(2) 原告X9は、平成二年六月二〇日ころ、同原告の勤務先に電話をかけてきたCから、「イランで地震があり、原油価格の値上がりが見込まれます。オペック総会が七月に開催され、原油価格の値上げが決定されます。大変良いチャンスですから、是非会って話をさせてほしい。」と原油の先物の売買取引を勧められ、同月二五日、勤務先付近の喫茶店において、被告Y5及びCから「いま原油を買えば必ず儲かる。」と再度勧誘され、先物取引委託契約書に署名、押印し、原油の先物の買い注文一枚を出した。

(3) 原告X9は、その後、①八月六日ころ、被告Y6から「中東情勢から見て、まだまだ値上がりするから、五枚に増やせばもっと儲かりますよ。保証金は、今の一枚を仕切れば差額分二二四万円万位でできます。」と勧められ、そのとおりの建玉をし、②同月二〇日ころ、被告Y6から、相場が激しく変動しているため、保証金が一枚八〇万円から一五〇万円にアップした旨連絡を受けたため、買い一枚を利食いで仕切って、新たに買い一枚を建て直し、その差額を保証金とし、更に残りの差額二六五万円を現金で被告会社に交付し、③同月二七日ころ、被告Y6及び被告Y5から「七枚売りを建てて両建にすべきだ。買いは情勢を見ながら仕切ればよい。」「短期間で済むから、借金してでもやるべきだ。」と勧められ、そのとおりに建玉し、④同年九月一一日ころ、臨時保証金が一枚一〇〇万円かかるとの連絡を受け、買い五枚を仕切って売り七枚分の臨時増保証金として被告会社に交付し、⑤同月二五日ころ、「臨時保証金が不要になるから、その分で両建にすべきです。」と勧められ、買い六枚を注文した。

(4) 原告X9は、同年一〇月二二日、Y1被害者救済弁護団に事件の解決を依頼し、弁護士の指示により同月二三日、すべての建玉を仕切った。

(5) 以上の取引によって、原告X9は、被告会社に対し、平成二年六月二八日から同年一一月七日までの間、別表(一〇)「X9保証金返戻金一覧表」記載のとおり売買取引についての保証金として合計一七六七万九七九〇円を交付し、被告会社から、同年一〇月二二日及び同年一一月七日、合計八六六万七一六二円の返戻を受けた。(争いのない事実、甲第九号証、第五五号証、甲第五六号証の一ないし六、第五七号証の一ないし一三、原告X9本人尋問の結果)

(一〇) 原告X10との取引

(1) 原告X10(以下「原告X10」という。)は、昭和三九年生まれの男性で、株式会社bに勤務するサラリーマンであり、本件まで商品の先物取引の経験はなかった。

(2) 原告は、平成二年二月二〇日ころ、同原告の勤務先を訪問した被告会社の営業員Hから「これから原油が値上がりします。やってみませんか。いま貯金しているお金があればそれをもっと増やすことができます。これから上がっていくので絶対損はしません。」と原油の先物取引を勧められ、同月二八日午前、右勤務先に電話をかけてきた右Hから「突然ですが、急に原油が値上がりする情報が入りました。そこでX10さんのために一枚確保しました。六月ころまでオペック減産の協約が決定しましたので、絶対に儲けられます。安心して下さい。たった一か月で四、五〇万円以上の利が出ます。そこで今回X10さんのために確保した一枚を契約しに、すぐに当社にきてください。でないとせっかくの注文が流れてしまいます。一枚たったの一三〇万円です。すぐに支払えなくても構いませんから、今日すぐ契約だけしに来て下さい。一回きりでもいいですから。やめたいときはすぐにやめられますし、後から無理に買わせませんから。」と聞かされたため、被告会社に対し、原油の買い注文を出し、同日午後、被告会社へ行き、被告Y5から更に「必ず原油は値上がりし、損することは考えられません。絶対に儲けがでます。」等と言われ、同日、被告会社に赴いて、先物取引委託契約書等に署名、押印した。その際、リスクについては、「あなたの場合は下がって損をすることはないので関係ない。」と説明された。

(3) 原告X10は、その後、被告Y5、A、被告Y3、被告Y6の指示どおりの取引をし、その結果、原告X10は、被告会社に対し、平成元年三月六日ころから同三年八月八日ころまでの間、別表(一一)「X10保証金一覧表」記載のとおり売買取引についての委託保証金として合計六〇四万二四七一円を交付した。(争いのない事実、甲第八二号証、第八四号証、第八五号証の一ないし四、第八六号証の一ないし三七)

(一一) 原告X11との取引

(1) 原告X11(以下「原告X11」という。)は、昭和二四年生まれの男性で、i株式会社に勤務するサラリーマンであり、本件まで、株式取引、商品先物取引いずれの経験もなかった。

(2) 原告X11は、平成元年一一月初めころ、同原告の勤務先に電話を架けてきたCから「アメリカのテキサスの精油所が火事になったので、原油の値段が間違いなく上がります。三枚ほどいいですか。」と原油の先物取引を勧められ、翌日、勤務先を訪れた被告Y5とCに買いを三枚注文し、同月一〇日、被告会社に赴いて、先物取引委託契約書に署名、押印した。

(3) 原告X11は、その後、被告Y5、被告Y6、被告Y3の指示に従い、原油のほか、大豆油、大豆粕をも取引銘柄にしながら被告会社と取引をした。同原告は、これにより、被告会社に対し、同月一三日から同三年七月九日までの間、別表(一二)「X11保証金一覧表」記載のとおり売買取引についての委託保証金として合計一六七三万二〇〇〇円を交付した。(争いのない事実、甲第八三号証)

4  被告らの責任

(一) 会社ぐるみの詐欺的商法

被告会社は、前記2認定のとおり、その設立当初から、マニュアル化し、社員に周知徹底させていた前記認定にかかる各方法を弄して顧客から金員を騙取する詐欺的活動をしていた。被告らは、各原告と前記3認定のような取引をしたものであるが、右各取引は、いずれも利益を生ずることが確実であるとのいわゆる断定的判断を提供して執拗に各原告に先物取引を勧誘し、クーリングオフの適用を回避しながら、取引契約を締結するや、両建、難平、利乗せ満玉、保証金の引き上げ、途転、直し、無敷、薄敷等の方法を駆使して、保証金を出させ、一方で手仕舞の要求を拒否しながら、他方で客を損勘定に持ち込むいわゆる客潰しを実行していることから、正に各原告に対しても前記2認定の方法をそのとおり実施したものであったことが認められる。

(二) 被告会社と被告Y2を除く被告らの責任

したがって、被告会社を設立し、かつ実質的に管理していた被告Y3、被告Y4は、被告会社の客である原告らすべてに対して、当初から損害を被らせる意図があったと推認でき、他に右認定に反するような特段の事情は窺えない。

しかし、そのような立場にはなかった被告Y5及び被告Y6については、被告会社による原告らに対する一連の詐欺行為の流れの中で、その全体に亘って関与していたと認めるに足りる十分な証拠はない。そこで、両被告については、それぞれが、勧誘、現金等の請求ないし受領、取引についての指示等の直接的な関与をした原告に対する関係でのみ違法な行為を行ったものと認めるべきである。しかるとき、被告Y5は、原告ら全員に対して、右のような直接的な関与をしているが、被告Y6は、原告X3、原告X6に対する関係ではそのような関与をしていない。

(三) 被告Y2の民法と商法上の責任

被告Y2は、被告Y3、被告Y4が被告会社を設立する際に、両名に頼まれて名目上代表取締役社長に就任したものであり、被告会社の経営に現実に具体的に関わったと認めるに足りる証拠はなく、右両名や被告会社の営業員に対する監視をすべき立場に実質的にあったとも認められず、また原告らに対する詐欺に関わったと認めるに足りる証拠もないから、原告らに対して、民法七〇九条、七一五条二項、七一九条、商法二六六条の三第一項に基づく責任を負うべき根拠はないとみるべきである。

(四) 小括

以上によれば、①被告会社及び被告Y2を除くその余の被告らの前記各行為は、全体として原告X3及び原告X6を除くその余の原告らに対する不法行為を構成すると認めるべきであり、右被告らは共同不法行為者として、各自、右原告らに対する損害賠償責任があり、②被告会社並びに被告Y2及び被告Y6を除くその余の被告らの前記各行為は、全体として原告X3及び原告X6に対する不法行為を構成すると認めるべきであり、右被告らは共同不法行為者として、各自、右原告らに対する損害賠償責任があり、③被告会社は、右①②で不法行為責任を負うべきであると認められた被告らの使用者として、民法七一五条に基づき、原告らに対する右同様の責任がある。

二  争点2(損害)について

1  財産的損害

被告会社は、前記認定のとおり、当初から有していた詐欺による金員騙取の目的で、各原告から委託保証金名下に各金員の交付を受けたものであるから、各原告が被告会社に交付した委託保証金のうち未返還額全額をもって損害であると認める。原告X1が平成二年一月二五日、交付した川崎重工業株式会社の株式一〇〇〇株は、その日の終値によって、その価額を算定すべきであるところ、右終値は甲第一号証及び弁論の全趣旨から九九〇円であると認められるから、その価額は九九万円であると認める。

原告らの未返還額は別表(一)「損害一覧表」の財産的損害欄記載のとおりである。

なお、前記した本件各取引の開始及び損害の拡大についての経過を仔細に検討するとき、原告ら自身にも慎重さが足りないと見るべき点がないとはいえないが、前記1認定の財産的損害の算定並びに後記(2)弁護士費用の損害を算定するに当たり、原告らの前示各事情をもって過失相殺すべき程度の不注意に当たる事情は見出し難い。したがって、本件では、過失相殺をすべき場合には当たらないというべきである。

2  精神的損害

原告らと被告会社の各被告ら間の取引の実際について前記認定した経緯のうち、被告らの前記した違法行為の態様、回数などの諸点、原告らの対応の仕方などをぞれぞれ全体的に考察するとき、原告らは、前記1認定のとおり財産的損害の賠償を認められたことにかんがみると、さらに原告らの精神的苦痛を慰謝すべき事情は認められず、他に右事情を窺わせる的確な証拠はない。したがって、原告らのこの点の主張は理由がない。

3  弁護士費用

本件事案の内容、損害の種類、その認定額、その他前示した諸般の事情を総合考慮するとき、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、各原告について前記1記載の未返還額の一割を下回らないものと認めるのが相当である(小数点以下切捨て)。

第四結論

よって、(一)原告らの被告Y2に対する本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、(二)原告X3、原告X6の被告Y6に対する本訴各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、(三)以上を除き、原告らの被告らに対する本訴各請求は、原告らについて前記第三、二、1の各財産的損害額と同第三、二、3の各弁護士費用額を合計した各損害額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これをそれぞれ一部認容し、その余は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲田龍樹 裁判官 光本正俊 裁判官 上野正雄)

<以下省略>

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